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<咳について2017>

2015年2月6日、2016年3月2日付けのひとりごとでも書かせていただきましたが、この時期になると咳を訴える患者さんが増えてきますので、再度書かせていただきます。

咳を主訴とする病気はたくさんあります。日本呼吸器学会発行の「咳嗽に関するガイドライン」では、咳が続く期間が3週までを急性咳嗽、3~8週までを遷延性咳嗽、8週以降を慢性咳嗽と分けています。急性咳嗽は感染によるものが多く、時間が経つにつれてそれ以外の原因によるものが増えてきます。

実際には咳嗽の原因として最も多いのは感染によるものです。感染性咳嗽はウィルスなどの微生物によって引き起こされる炎症症状で、原因となった微生物が検出されなくなった後も持続するため、咳をはじめとする症状が続くことがあります。ただし、結核などの慢性感染症や併存する他の呼吸器疾患が無ければ、8週間以上持続することは稀です。

急性咳嗽の原因の中には百日咳マイコプラズマなども含まれますので、その流行時期や症状を注意深く観察し、胸部レントゲンなどの検査を追加する必要もあります。鑑別診断のためには問診が重要です。感染症に対して早期から適切な治療がされれば、咳は長期に持続しなくてすみます。

感染性咳嗽と診断され、適切な治療がなされた場合でも8週間以上咳が続く場合もあります。明らかな副鼻腔炎、その他器質的な肺の病変が無い場合は咳止めで様子を見ることがあります。加えて、感染では無い可能性も念頭に入れて慎重に診断を行う必要があります。

非感染性の咳嗽の中の一つが喘息(咳喘息)です。それ以外にも逆流性食道炎、慢性気管支炎、耳鼻科疾患(副鼻腔炎、喉頭アレルギー、後鼻漏、など)、誤嚥や、稀に肺がんなどの悪性疾患も考えなければいけません。

咳が続いて病院を受診した時に「咳喘息」と言われた方がいると思います。咳の訴えが長い患者さんに対して、あまり問診や検査もせずに「咳喘息」と言って喘息治療薬を処方する医者もたくさんいます。

咳喘息」は「気管支ぜんそく」と同様に、気道過敏性(様々なものに対して気道が反応しやすくなっている)の亢進がみられ、気管支拡張剤が有効で、ステロイドの吸入により治療が必要な疾患です。臨床的な症状は気管支ぜんそくと同じ様に、夜間から早朝に悪化しやすく、季節性(毎年同じ時期に悪くなる)があります。痰が無いことが多いのですが、痰が出る方もいます。ぜんそくと違い、基本的には呼吸困難、喘鳴などは認めず、咳が主症状です。アレルギーの素因がある方が多く、呼吸機能検査では異常を認めないことが多いですが、抹消気道閉塞がみられることもあります。このような方に気管支拡張剤や吸入ステロイドを投与すると、よく効きます。ただし、感染が疑われるときには安易に吸入ステロイドなどは使用しないように注意しなくてはいけません。感染が増悪する場合もあります。

安易に咳止めや吸入薬だけで経過を見るのではなく、あまりにも良くならず長引く咳の時には胸部レントゲン撮影、血液検査、肺機能検査、耳鼻科的な検査を施行する必要がありますので、是非受診してください。